
総合的な学習の時間と探究
激しく変化する予測困難な現代社会を生き抜く力を育むため、探究学習が注目されています。総合的な学習の時間はもちろん、教科の学習においても探究的に学ぶことが重視されています。
高等学校では2018年に「総合的な探究の時間」と名称が変わりました。探究学習では、子どもが自ら問いを設定し、その問いを明らかにするために情報を収集し、集めた情報を分析することで、問いに対する考えをまとめ、自らの考えを表現する中で、また新たな問いが見出されるといった、学習のサイクルが重視されます。
授業は、先生から生徒に効率的に知識を伝達するという、伝統的なスタイルからの変革が求められることで、子どもたちが思考する場面や求められる思考も変わってきます。
教科学習とは異なり、探究学習では生徒をどのように評価すれば良いか。また、学級全体で行う探究や、興味関心の近い人とグループに分かれて取り組むもの、あるいは個々の興味関心に応じて個別に取り組む、個人探究もあり、それぞれ評価の方法が異なります。
評価が難しい「探究」ですが、一般的な評価方法をまとめてみました。学校ごとにオーダーメードにて評価を作成させて頂くことも可能ですので、お気軽にお問い合わせください。
■ 探究的学習の個人差
クラスの中で、探究的学習やアクティブラーニングを経験することで、残念ながら、すべての生徒が同じ学習効果を享受することはできません。
探究的学習は学習内容の深い理解に対し効果的であるとの報告がありますが、すべての学習者が探究的学習から同様の学習効果を享受できないということが海外の研究から明らかになっています。
そのため、「個人差がある」という前提でカリキュラム設計やグループ分け等も含め、授業計画を行わなければ、生徒の皆さまお一人おひとりを伸ばすことにはつながりません。以下、先行研究も含めてご紹介いたします。
協働的な学習に対する適性が高くない生徒の場合、協働学習する他の生徒から、学習の成果が影響されやすいことが明らかにされています。つまり、ともに学ぶ生徒によっては学習成果が抑制される可能性があることを示しています。
良い影響も悪い影響も、他の生徒から影響を受けるため、クラス内の誰と組むか、どのグループに属するかという協働学習のグループ分け・組み合わせが、テーマや内容と同じくらい大切になります。
他方で、生徒の協働的な学習への適性が高い場合は、ほかのどの生徒と協働して学んでも一定程度の学習成果を得ることができます。学習者の学業成績が高い場合は探究的学習が効果的ですが、学業成績が高くない生徒の場合は探究的学習より、伝統的な知識伝達型の授業の方が学習の成果が高いことを明らかにした研究もあります。
パーソナリティ特性に着目した研究では、「外向性」「開放性」「調和性」「誠実性」の項目が高いと、学習のプロセスにおいて生じる間違いやつまずきをうまく生かし、より能動的に学習していけることが明らかにされています。
探究的学習やアクティブラーニングは「調べる」「書く」「話す」という学習活動に積極的に関与すること、その学習での認知プロセスを外化することが含まれます。そして、それを振り返って自覚する「リフレクション」することも重要です。
このリフレクションに関わる心理学的な特徴としては「自尊心」があげられますが、自己評価を反映したもので、先行研究からは、「自尊心」と「自己の思考や行動、感情の明確な把握・理解」をすることの間には正の関連があることが示されています。
探究的学習やアクティブラーニングではその学習の過程において思考錯誤することがより必要になるため、より負荷のかかった学習となります。そのような高負荷な状況において、自尊心の低い生徒はより自己防衛的になるという報告もあります。
つまり、探究的学習やアクティブラーニングの学習効果は、自尊心が高い生徒においてより顕著に表れ、自尊心が低い生徒では学習効果が見られないという報告もあります。
国内の研究からは、自分自身の将来の職業について明確な見通しをもつことは、青年期の自己発達と密接な関連があることが示されています。かつアクティブラーニングにより学業と職業の接続がより意識される可能性も示唆されています。
■ 探究に関する評価・思考態度
探究で大切にされる思考態度として、評価の際のヒントになればと思います。
◇ 自分の知識や経験を広げようとする意欲に関わる態度
◇ 他者と関わりながら思考を深める場面に関する態度
◇ 目の前の情報や自分の学習状況をメタ認知的に捉えることに関わる態度
まず、「自分の知識や経験を広げようとする意欲に関わる態度」に関しては、例として次のような項目が挙げられます。
・新しいことをつぎつぎ学びたいと思う
・授業で気になったことは自分で調べてみる
・課題を見つけたら自分なりに解決したいと思う
◎探究学習の課題設定の場面では、このような学習意欲は学習活動の起点となり、探究の軸となる態度であるかと考えます。
次に、「他者と関わりながら思考を深める場面に関する態度」に関しては、例として次のような項目が挙げられます。
・他の人も納得できるように、理由をつけて説明しようとする
・意見を聞くときは、話におかしなところがないか考えながら聞く
・授業で学んだ大事なことは、自分の言葉でまとめてみる
・いろいろな考えかたの人と関わりながら学びたい
◎他者との関わり方に関する態度が重視されると考えられます。
最後に、「目の前の情報や自分の学習状況をメタ認知的に捉えることに関わる態度」に関しては、例として次のような項目が挙げられます。
・思い込みで判断しないように気をつけている
・いろいろな人の立場から考えようとする
・他の人の考えを、自分の言葉でまとめるようにしている
・授業中、自分のしていることが何のための作業で、次に何をするか考える
◎目の前の情報や自分の学習状況をメタ認知的に捉えることに関わる態度であります。他者の思考についてだけでなく,自分の思考や活動をメタ認知的に捉えることは,探究を自ら推し進めるために必要な態度であると考えられます。
そのほか、レジリエンス能力や没頭に関する「探究の持続性」の項目や「課題の発見」、「学習状況の自認(自分をメタ認知的に捉え,行動するための態度よりよい自分になろうとする )」に関する項目もあります。
探究では,自らひとつ高みに登ろうとすることが求められます。そのためには、現状の得意・苦手分野など、できることとできないことの自覚が必要にもなり、「探究」は他者への関わりだけでなく、自分自身を知るきっかけにもなり、生徒の皆さんの学習やキャリア発達を促すことのできる奥が深いものであると考えます。そういった授業の評価というのは難しいものですが、オーダーメードも可能ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。